鳩に餌をあげる仕事
- 6月18日
- 読了時間: 2分
昔の話なんですが、求人を見ていたら「鳩に餌をあげるバイト」というのを見つけましてね。時給2千円くらいでしたでしょうか。とんでもない高給のお仕事ですよ。
当時は「鳩に餌をやってはいけない」なんてルールもなかったので、これは天職だ、と思いました。真っ先に連絡しようと決意したんです。
ただ、その会社はメールでしか連絡を受け付けておらず、内心「あやしいな……なんだこれは?」と。そもそも、「鳩に餌をあげる仕事」って一体なんなんだと、若い自分は戸惑いました。
全国の鳩を元気にしたい……?いや、もしかしてその餌には特殊な菌が含まれていて、それを鳩に媒介させて世界中にばらまくバイオテロ?
妄想は膨らみましたが、結局、僕はメールを送りました。
ほどなくして届いた返事は、びっくりするくらい淡々としたものでした。
「5kgの餌を送ります。それを鳩にあげてください。」
それだけ。しかも、「この仕事は一人一回限り」とのこと。
がっかりしました。けれど、逆にロマンも感じました。“一度きりの鳩ミッション”――これは記憶に残るだろうと、思い出作りのつもりで受けることにしたんです。
ただ、メールのやりとり全体から、質問は一切NGという空気がありました。そういう“無言の圧”ってありますよね。怖かった。
そして、来ました。普通に、鳩の餌が。
僕はその袋を持って、隣の公園に行きました。炎天下のなか、ひたすら鳩と戯れました。
最初は楽しかったんです。たくさんの鳩が寄ってきて、ポッポポッポと餌を食べる。ああ、これが“仕事”だなんて、素敵じゃないか、と。
でも、しばらくすると鳩たちが満腹になって、明らかにテンションが下がってきたんです。餌を無視して、ちょっと遠くで羽繕いとか始めてしまう始末。
僕は思いました。
「で、これ誰が見てるんだ?」もう残りはゴミ箱でいいかななんて思ったんですが、思いとどまりました。あの謎の会社は、一切の確認もせず、僕を信頼して餌を送ってきた。
だから僕は、違う公園に行き、新たな鳩たちを召喚したのです。
そうして、5kgの餌は無事、全ての鳩のもとへと届けられました。
今でもときどき思い出します。あれは本当にあった話か? まるで夢だったような、不思議な記憶。
けれど確かに、あったんです。鳩に餌をあげる仕事。
「ネコを探す仕事」みたいな隠語の闇バイトじゃなくて良かったです🥺